「いつもの電車」の最後の朝を。
ふと、大昔に小っ恥ずかしい文章を書いたなと思い出して、厨二病全開(現在進行形ですが)だった頃のブログ記事を漁るなどしていました。
もうこの記事を書いて5年も経つことに老いを感じざるを得ないですね。
午前6時50分。
ピンク色がアクセントのいつもの電車は、変わらない姿で車庫を後に。
気づけば新しい顔が増えて、そして仲間も数を減らして、出番も減って。
それでもいつもと変わらない、尾を引くブレーキ緩解音を響かせ、あけぼのの街へと。
冬の朝ならではのこれでもかという朝日を浴びて、大きな車体を輝かせる。
朝焼けの色、この電車にはぴったりだった。
そして、いつもの時間。
鳴り響く発車メロディ、相槌を打つように聞こえてくるドアブザーの音。
誇らしく緑色の幕を掲示して、何回も辿った比治山路へ。
お世辞にも広いとは言えない宇品通りを、大きな車体を器用にくねらせて駆けていく。
直通色仲間だった3004号との邂逅も、もう随分と昔のことのように思えちゃうね。
いろんな思い出の詰まった宇品の道を、振り返るように走り抜ける。
いつもの電車はあっという間に比治山通りを抜け、終点、広島駅へ。
広島駅近辺も、数年前に比べると大きく変わったね。
新しいビルの窓ガラス映る姿に、今では見る影もなくなった旧南口に。
猿猴川の両岸に咲く桜は、ピンクの車体によく似合っていたと思う。
これから建設されるであろう駅前大橋線と、”新”広島駅と。
キミと一緒に見ることは叶いそうになさそうで、少し寂しいかな。
最後の広島駅を後にして、通いなれた比治山路を下る。
これから止まっていく一駅一駅が、キミにとっては最後の寄り道。
一足先に車庫に帰っていく3003号と本線上で最後のすれ違い。
「おつかれさま」 「お気をつけて」 そんな会話を交わすように。
79年組ならではの角ばったヘッドライトも、もう見かけることはなくなっちゃうんだろうな。
そして終着駅、広島港へ。
1963年に福岡で活躍を始め、時代の流れに翻弄され広島へ。
気づけば60年近く走り続けてきたキミも、ここがほんとの終着駅。
降車ドアを開けて、最後の乗客をおろして。
これが最後なんて思いたくはないけど、それでも残酷に出発チャイムが響く。
これから通る道は、もう二度と通ることのない道。
宇品の撮影地として少し有名になった古びた商店街も、この電車と一緒にさよなら。
市内線にやってきて早20年、キミは慣れ親しんだ景色に別れを告げていく。
思えば雨の日も雪の日も、ピンク色と二つ目ライトはどこか安心感があった。
特にキミは、いつもどんなときも走っている。そんな印象を感じていたな。
御幸橋を渡り、千田車庫への帰路もあと少し。
御幸橋から見た花火も、桜も、同じツリカケ仲間の3100形との並びも。
悲しいけど、ぜんぶぜんぶ過去のものに。
2021年2月22日。「いつもの電車」の最後の朝を。
まさかキミにさよならを告げる日が来るなんてね。
この時の僕にはまだ、信じられなかった。